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家に着く。
一戸建てで近所の中では比較的大きい。
俺はその鉄でできているドアのノブの一点だけを見つめて息を吐いた。
そっと右手を添え、極力音が出ないように時計回りにひねる。
ガチャリと思ったより大きな音がして俺の心臓は痙攣したかのように跳ねた。
半ば泥棒みたいに家の中に滑り込んだ俺は、この場にいたくないと自分の部屋ーー2階へ続く階段を目指した。
だけどその手前で見つかってしまった。
「帰ったの?」
仕方なしに俺は足を止めた。
肌の色素が薄い「その人」は俺に優しげな視線を送ってくる。
皺は無く、他人から見れば20代に見えなくもない美人な顔をしている。
俺の母親だ。
親父が死んでから2年間、1人で俺を育ててくれた唯一の肉親。
そんな人に俺はーー。
「ああ」
素っ気なく、ただの一言で終わらせようとした。
2階に上がろうと再び足を上げるがまたも制止の声が掛かった。
「待って、今日は龍也(タツヤ)君の大好きなハンバーグ作ったの。私もお父さんも高校に龍也が入ってお友達が出来たか心配。お話しましょ」
俺はその言葉にいたたまれなくなって歯切りした。
入学式にも言われた言葉。
毎日毎日、繰り返される。
現実見ろよ。親父は死んだんだよ。
実際には言えないが肺を掴まれたように息苦しくなった。
「その言葉、昨日も言ってた」
「……」
立ちすくむ母親に背を向けて、階段を駆け上がった。
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