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夢を見ていた気がする。
少女が俺の隣にいた。
俺とは正反対の愛らしい顔。
やや青み掛かった艶やかな長い黒い髪をストレートに伸ばしている。肌は健康そのものの乳白色で朱色の大きな瞳は宝石のようにキラキラしている。
幼い顔つきの少女は15、16くらいだろうか、少年のような元気のある笑みを浮かべている。
誰だろうか?
記憶にござらん。
でもなんか知っているような気もする。
どっちやねんと叫びたくなるが夢のなかじゃなぁ。
少女がニッと笑い駆けていく。
そこでノックの音に気付いて夢が消えた。
目を開ける。
昨日ベッドに倒れこんだ状態とは態勢が変わっている。
そこに以前とは唯一変わってしまった母親の抑揚のない声が耳にはいる。
「龍也君、今日は入学式でしょ? 早く起きて、朝ご飯食べなさい」
「……」
返事はしない。
今日は入学式でも無ければ学校にいく日でもないからだ。
セリフは毎日一字一句変わらない母親の言葉。
病院行けよと言っても反応は無いし、医者に相談してカウンセリングを家に寄越したのだが結局誰の言葉も母親には届かなかったのだ。
だからあの日、親父が死んだ入学式の日から彼女の時計は止まったまま。
まるでずっと繰り返す壊れたオーディオ機器のように同じ言葉を吐き続ける。
嫌気がさすね。
でもああなったのは母さんのせいでも、もちろん俺のせいでもない。
だから言えない。
言っても通じない。
少しの間、ぼーっとしていたがやがて外に出ることを決意した。
この家の空気は葬式でも始めるのかってくらい居心地が悪い。
俺は学ランだったことに気が付き普段着になってから扉を開けた。
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