episode1

3/7
前へ
/19ページ
次へ
「え…」 ―橘速人。 その名前を聞いただけで、グラスを握っている指に力が入る。 ……まさか、もう何年も前の人の名前を、合コンで聞くことになるなんて。 「……うん。やだ、なんか懐かしいね。」 あはは、と乾いた笑いをハルキくんに返す。 自然と視線が下に向いて……お酒が入っているグラスを握っていた指も、力無くスルリと落ちていった。 「……俺、速人と大学入って仲良くなって。よく聞いてました。………どうしても忘れられない女の子がいるって。」 「え、」 「藍さん。………ちょっと、抜けません?」 ぎゅ、と握られた手首。 まっすぐに見つめられた、色素の薄い瞳。 …………今更何を話すことがあるの。 もう速人とは…何年も前に終わったこと。 無理やりにでもそう言い聞かせないと、ついていってしまいそうな自分がいて。 ついていってしまったら…もう、戻れない気がする。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加