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「え…」
―橘速人。
その名前を聞いただけで、グラスを握っている指に力が入る。
……まさか、もう何年も前の人の名前を、合コンで聞くことになるなんて。
「……うん。やだ、なんか懐かしいね。」
あはは、と乾いた笑いをハルキくんに返す。
自然と視線が下に向いて……お酒が入っているグラスを握っていた指も、力無くスルリと落ちていった。
「……俺、速人と大学入って仲良くなって。よく聞いてました。………どうしても忘れられない女の子がいるって。」
「え、」
「藍さん。………ちょっと、抜けません?」
ぎゅ、と握られた手首。
まっすぐに見つめられた、色素の薄い瞳。
…………今更何を話すことがあるの。
もう速人とは…何年も前に終わったこと。
無理やりにでもそう言い聞かせないと、ついていってしまいそうな自分がいて。
ついていってしまったら…もう、戻れない気がする。
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