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俺は、いつか読んだ昔話の、どこかへ売られて行く子供のような気持ちになっていた。
それにしても、人間というのは、極限状態にある時、動物的な勘が動くのだろうか。 今だにあの時の感覚ははっきりと覚えているのだが、不安でいっぱいになっていて、ろくすっぽ周りなんか見ていなかった俺の目に、ある家だけがクローズアップされて飛び込んできたのだ。
そして、同時に俺の脳は誓告を発した。
(いやや、あの家だけは嫌や)
その家とは、川とススキに見事にマッチした、わびしさナンバーワンの、日本昔話に出てくるような茅葺きのボロ家だった。
しかも、半分は茅葺きさえ剥がれてトタン板が打ち付けられている。
「昭広ちゃん、ここさい」
果たして、おばちゃんはその家の前で立ち止まった。
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