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ーとある何の変哲もない休日。
「ねぇ冬真?」
「…なに。」
普通の暮らしを送る上でまぁまぁな広さのマンションの一室にひとつだけあるソファーで各自くつろいでいる時、姉は俺に突然話しかけた。
結構至近距離だし、姉と向かい合うのは少し気まずく感じて本を読むのをやめないまま、素っ気なく答える。
「転校しない?」
「…は?!」
思わず素っ頓狂な声をあげる。
もはや気まずさもクソもないくらい驚いて横を勢いよく見ると、思わずうわぁと呟く。
その目は…姉の目は、なんというか……すっごい、輝いていた。
「だってさ?私の可愛い可愛い弟が、公立中学2年にして恋愛経験0だよ?悲しいじゃない。環境を変えた方がいいわ。女の子がいない、別のところに…」
「待ってくれ姉ちゃんは俺にどんな恋愛をさせようとしてんの」
「ボーイズラブ略して男子同士のキャッキャウフフな恋愛だ異論は受け付けん!」
「弟の人生をなんだと思ってやがる!」
「天からの宝物!」
「またの名を欲望への犠牲ですか成る程腐女子怖い。」
姉ちゃん…俺と15歳くらい離れてるけど、俺の覚えている限りではただ一人の親族。
んで、腐女子。
さらに腐男子と結婚してる既婚者だけど、週4回はここに帰ってくる。
姉ちゃんはいつもこんなかんじだし、こういう会話はある意味日常の一環だ。
今回も適当に話しときゃ終わるさ。
なんて思っていた。
だからこそ、いつもはこの曇りなき欲望に真剣な雰囲気を漂わせる姉を見て少し焦りを感じた。
「っていうか、もうそろそろいい加減にそういう事言わないで欲しいんだけど。
今回はやけに真剣ですみたいな顔しちゃって…趣味にどうこう言うつもりはないけど、マジな時だけにしてくれる?」
そして、事態は起きてはならぬ方向へと転ぶ。
「うん?マジな話だけど…ほら。」
そういう姉ちゃんの手には転校届、転出届etc…
半ば奪うように確認すれば、生徒の名を書くであろう場所にはしっかりと兎月冬真の文字、保護者名には姉の名前、ご丁寧に捺印等々も全て揃っている完璧な書類だった。
俺はとりあえず、焦燥を消し去って
天(井)を仰いだーーーー
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