夜語り

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二人の繋がれたその手はなかなか離れなかった。 死後硬直の影響もあっただろうが、私には違うように思えて仕方なかった。 『離れたくない』『離さないで』 『愛してるから』 男の鞄の中には便箋があり、そこには二人の悲痛な思いが切々と書かれていた。 男が旧家の長男で跡継ぎであること。 女は身寄りのない芸者であること。 二人の仲を認めて貰おうと、男の両親や親族に訴えたが、猛反対されたこと。 そうして男の父親が手を回し、芸者である恋人を土地から追い出そうとしたこと。 男には、強引に婚約者をあてがったこと。 二人でどこに逃げても、強大な父親の力に阻まれてしまうこと。 それならば―― 『いっそ、あの世で添い遂げよう』 『地獄の果てで祝言をあげよう』 まだあどけなさの残る二人を見て、やるせなくてたまらない気持ちになる。
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