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そういうことを重んじる人だったから。少年のこともただ『愛し子』と呼んでいた。不思議なものだ。名も呼んで貰えぬという事に対して、少年は疑問を持ってはいた。名が魂であるならば、それを呼んでもらわなければただの人形も同然なのでは、と。しかし、その一方で、それが嬉しかった。
自分は確かに、愛してもらっていたのだから。
―――――――――――――――
ふと、闇は広がった。
唐突に。
少年はその深い深い冥がりの中にあった。目を閉じているわけでも塞がれているわけでもないのに、目をカッと見開いてみてもあたりを見渡せど、ただ真っ暗闇だけが広がっていた。
まるで、黒く澱んだ海を漂っているかのようだ。もがけどもがけど先はなく、出口は見えない。
声を出してみても音が聞こえない。
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