参∥愛の菰

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ふんふんと頷く愛菰。 その頭を軽く髪を梳くように撫でる。触れてはいけないと思いながらも、無邪気に自分の膝に収まる愛菰を見ていると、その手を伸ばしてしまう。恐れても尚、近づいてきてくれるこの少女がいつしか愛おしく感じていた。 暢慶に感じるものとは少し違う。けれど、近い感情。 「愛菰」 「ん?」 「なんでもない…………そろそろ退出させていただきます」 愛菰は渋るかと思ったのだが、すんなりと膝から降りた。ぱんぱんと小さな手で着物にできた皺を伸ばす。 「気が向いたら…………また、来てくださるか?」 春に背を向ける。 よって、そう問いかける彼女の表情を窺うことはできない。 「おそらく、女官達が許してはくれないでしょう」 「そうだな…………」 これからはおいそれとは会えないだろう。 「でも、明日の祭りには近くにいますよ。でも、その後はなかなか…………普段は陰陽寮の雑用をやってますから」 後の方は声を細めた。 愛菰は振り返って顔を輝かせた。 「そうか!それは残念だな」 全然、残念そうではない。 「はい、とてつもなく忙しいので…………では俺はこれで……下がらせていただきます」 「うむ!」 これは……先が思いやられる。 ―――――――――――――――
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