肆∥式年祭

2/24
230人が本棚に入れています
本棚に追加
/275ページ
女房である彼女はどういった経緯があって春が養子として迎えられたのかも、その出自も玄凱より聞き及んでいた。春が神子だと知りながら、武家の若として扱っていた。 当の春はといえば、その事を悟ってもいない。 「はい。できましたよ春様」 また、腰を軽く叩かれた。 春は不満げに顔をしかめると、自分の姿を見下ろした。 鮮やかな藍の着物の上に藍鼠の袴。淡い黄味の帯を巻いた上から金縁の黒の堅帯。それを赤い房飾りのついた紐で留めている。もちろん、帯刀していた。 いつも一つに縛るか髷に結う髪は旋毛の位置でまとめ、輪にしてその根元を冠で留めていた。耳には赤石の耳飾りをつけている。 「また、孫にも衣装とかって言われそう…………」 「馬子ですよ。馬子」 呆れる黄櫨。 「……心配せずとも、春様はこの赤岸家の跡目。この絹の衣も金の冠もその身の丈に見合ったもの。将来将軍となるべきお方なのですから」
/275ページ

最初のコメントを投稿しよう!