零∥序の幕

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「俊影(シュンエイ)…………貴方は人の姿を模した何かなのか?……私は御前の中に、『人』というものを感じない」 天狐は体を起こし、着物を肩に掛けた。細い指先がゆっくりと襟を滑り落ちる。髪を片方の肩に流せば項が覗く。 細面で顎の線のはっきりした整った顔立ちの女。幾万の星の輝きを集めたかのような見事な銀色の髪。赤く熟れた柘榴のような唇。妖艶な美しさを秘めた切れ長の瞳はこれまた見事な紅緋の玉のよう。透き通るような純白の肌が闇さえも吸い込む。 人のものではない。 この女の美しさは化生の者故。 神羅(シンラ)の森を統べる大妖。 銀狐の魅那月(ミナツキ)。 彼女は姫宮と呼ばれ他の妖(アヤカシ)達から畏怖される存在。 人と交わることなどない。そんな彼女は今、人間を相手にしていた。
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