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彼の肩を掴み、息を整える。桃魔はそれを待っていてくれた。
「早かったなぁ」
「これは、俺の独り言だから聞け…………俺は、まだ式の一柱も下せていない陰陽師見習いだ。だから、これから式を召喚する」
「そうかぁ…………独り言、ね」
「あぁ、独り言だ。じゃあ、俺は……これで」
春は駆け出した。
桃魔は、しばらく黙って自分を追い抜いていった背中を眺めていた。
「適わへんなぁ…………」
『あれは強い。我らにも計り知れぬ器よ』
傍らに勝手に顕現した鹿島が桃魔の震える肩を叩いた。
「なんや、鹿島。アテが弱いって言いたいんかいな?」
『否、御前はそこそこ強いさ。何せ……我の主なのだから』
鹿島は憂いを浮かべた表情で遙か高みの、天を見上げた。その横で、桃魔は静かに涙を流した。その滴が頬を伝う。
届けることのできなかった想いをかき消すようにして。
――――…‥・・
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