拾∥夏の梢

7/16
230人が本棚に入れています
本棚に追加
/275ページ
彼の肩を掴み、息を整える。桃魔はそれを待っていてくれた。 「早かったなぁ」 「これは、俺の独り言だから聞け…………俺は、まだ式の一柱も下せていない陰陽師見習いだ。だから、これから式を召喚する」 「そうかぁ…………独り言、ね」 「あぁ、独り言だ。じゃあ、俺は……これで」 春は駆け出した。 桃魔は、しばらく黙って自分を追い抜いていった背中を眺めていた。 「適わへんなぁ…………」 『あれは強い。我らにも計り知れぬ器よ』 傍らに勝手に顕現した鹿島が桃魔の震える肩を叩いた。 「なんや、鹿島。アテが弱いって言いたいんかいな?」 『否、御前はそこそこ強いさ。何せ……我の主なのだから』 鹿島は憂いを浮かべた表情で遙か高みの、天を見上げた。その横で、桃魔は静かに涙を流した。その滴が頬を伝う。 届けることのできなかった想いをかき消すようにして。 ――――…‥・・
/275ページ

最初のコメントを投稿しよう!