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春の暁に生まれた。
だから、春暁と字を付けられた。真名とは正反対なその名前を少年ははじめこそ嫌った。ただ、この名を呼ぼうとする者も次第にいなくなった。
少年は単純に春(ハル)と呼ばれていた。
女とも男ともとれる名だが、それが自分にあっていた。故に、別段そう呼称されることに対しては何も思ってはいなかった。
ただ、つかの間違和感はあった。
名前自体に対してではない。
名を呼ばれることに対してである。
名とは魂。
名を呼ぶことは魂、命を縛ることになる。だからこその字なのだろうけれど、名は名であるに違いない。
つまり、母に名を呼ばれたことはない。
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