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零∥序の幕
いつの頃だったか。
私が人間の男の熱に浮かされ、この身をその腕(カイナ)に委ねたのは。人の子とは思えぬ美しい男だったからか、私は触れることを許した。
気紛れのこと。
ほんの、些細な。
漆のように艶のある長い髪。垂れた前髪の間から覗く炎の如き紅蓮の瞳から目が離せない。薄い唇が首もとに接吻を落とす。細くとも引き締まった身体は熱を帯びる。滑らかで穢れのない肌に指を滑らせる。
艶やかに。
身形も良いその青年には得も言われぬ気品が漂っていた。きっと、生まれの良さから来るもの。
文句のつけようがない。
その酔いに浸る。
青年は女の首元に吸いついた。恍惚とした表情を浮かべる女を無視して続ける。貪り食らう。
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