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肆∥式年祭
「若様、動かないでくださいな。ほら、シャキッと!」
そう言って、女房は春の腰を軽く――といっても、かなり痛い――叩いた。そして、堅帯を巻いた上から帯紐をきつく縛った。
「うぐっ!…………苦しい……」
これは、冗談抜きに内蔵がでる。
そう言ったら、女房・黄櫓(コウロ)に笑い飛ばされてしまった。
黄櫓は赤岸邸には十五の頃より仕えて、もう十年になる。長い亜麻色の髪を旋毛のあたりで一つにまとめている。薄手の衣は淡い黄色で上に羽織っているモノは少し透けた桃。緩い線の帯紐は白だ。職業柄、あまり装飾品はつけておらず、質素な、琥珀の玉飾りがあしらわれた簪をまとめた髪の根本に一本だけ挿している。
黄櫨は赤岸将軍夫妻の亡くした子供のことも知っていて、それをずっと不憫に思っていた。玄凱が春を連れて帰ってきたのを見たとき、彼女は安心したのだと言っていた。主である夫婦に本当の笑顔が戻り、邸にも活気が戻ったと。
彼女は春に感謝し、女官達の中では一番彼のことを可愛がっていた。
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