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でも。
「イヤだね。」
奴の提案を、瞬殺する。
「遅いのにしたけりゃ、お前ひとりでどうぞ。」
なんだよ、連れねぇの…と、和哉は口を尖らせながら
ブツブツ文句を言っているが、俺がこの早い時間を選んで
いるのには理由がある。
…と、カッコつけてみたものの、その理由は、実は大した
事ではない。
通学客より、通勤客の多い時間の方が、静かでいい。
この限られた車両空間の中で、大声で騒がれるのが、
正直嫌いなだけ。
和哉は、そんな理由なんか知らない。聞こうともしない。
だから俺も言わない。
所詮、電車の時間の早い遅いなんて、その程度の事なのだ。
と、急に電車が揺れる。
この路線、1箇所だけ必ず大きく揺れるポイントがある。
それがここ。
知っていたのに油断して、何もつかまる事なく立っていた
俺は、思わず目の前の吊り革を握った。
「…危ねぇ、転ぶかと思った。」
思わず呟いた俺に、和哉は、
「転べばよかったのに。」
と、冷たい一言。
「フン。俺が転ぶ時は、お前も道連れだぜ。」
負けじと、鼻で笑ってやった。
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