出逢いは、突然。

6/8
前へ
/136ページ
次へ
でも。 「イヤだね。」 奴の提案を、瞬殺する。 「遅いのにしたけりゃ、お前ひとりでどうぞ。」 なんだよ、連れねぇの…と、和哉は口を尖らせながら ブツブツ文句を言っているが、俺がこの早い時間を選んで いるのには理由がある。 …と、カッコつけてみたものの、その理由は、実は大した 事ではない。 通学客より、通勤客の多い時間の方が、静かでいい。 この限られた車両空間の中で、大声で騒がれるのが、 正直嫌いなだけ。 和哉は、そんな理由なんか知らない。聞こうともしない。 だから俺も言わない。 所詮、電車の時間の早い遅いなんて、その程度の事なのだ。 と、急に電車が揺れる。 この路線、1箇所だけ必ず大きく揺れるポイントがある。 それがここ。 知っていたのに油断して、何もつかまる事なく立っていた 俺は、思わず目の前の吊り革を握った。 「…危ねぇ、転ぶかと思った。」 思わず呟いた俺に、和哉は、 「転べばよかったのに。」 と、冷たい一言。 「フン。俺が転ぶ時は、お前も道連れだぜ。」 負けじと、鼻で笑ってやった。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加