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「だからさ、俺のためにも、そして真田のためにも、あー、それから周防のためにも、あっ、あと木村と、それから柏木と、それから……いや、とりあえずだな、みんなのためにも!東雲も早いとこ誰かを好きになってくれ!」
「え!?そんなムチャクチャな!!」
急に好きな人作れって言われても出来るもんじゃないし……。
「あはは、冗談冗談」
「うー……朝比奈め」
むすっと頬を膨らませたら朝比奈は大きくため息をついた。
「はあ……俺の片想いは当分続きそうだわ」
「え?」
「なんでもないです」
しばらく朝比奈と話していたら、最初のような気まずさはあっという間に無くなって、いつもの関係に戻っていた。朝比奈はもう少しだけ課題をやってくとのことだったので、笑顔で「また明日」と告げると図書館を出た。
「おかえり」
「うわ!!」
そうだ。先輩待たせてたんだった。
自動ドアが開いたと同時に現れた先輩に思わずギョッとする。
「その顔、俺の存在、完全に忘れてたよね?」
「なっ!そ、そんなことないですよ!そ、その証拠に……ほらっ!ちゃんと30分以内に出てきてますし!」
本当に先輩は妙に鋭い。いや、俺が顔に出やすいのか?ズバリと当てられ、必死に取り繕うように腕時計を見せて答えた。
「はいはい、そうだね」
ムッ。また子ども扱いしてるし。
クスクス笑う先輩を見たら、必死になった自分がなんだかバカみたいに思えた。
「で?例の朝比奈くんとは無事、仲直り出来たの?」
「お、おかげさまで…….」
「そう。良かったね」
先輩は優しく微笑むと俺の頭をよしよしと撫でた。
「じゃ、帰ろっか」
「はい」
本当に先輩はただついてきてくれただけだった。こういうこと言ったらいいんじゃない?とか、こうしたらいいんじゃない?とか、具体的なアドバイスは何もなかったけど、「仲直りしに行こう」って背中を押してくれたのは自分にとってだいぶ大きかったんだなって、帰り道、先輩の背中を見ながら思った。
「あのっ!」
「んー?」
「あ、あ……」
「あ?」
「あ、りがとう、ございました」
う、くそぅ、なんか、恥ずかしい!先輩にお礼だなんて一生言うことないと思ってたのに!
聞こえなーいとか、もう一回言ってーとか、言われるんじゃないかと思ってたけど、先輩は振り返らずに「どういたしまして」とだけ、答えた。
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