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鼻息荒く近づいた真田の顔を手の平で押しやった。真田とチューとか死んでも無理。あ、いや、嫌いとかじゃなくて、むしろ真田は愛すべきバカだから好きなんだけど、チューとか、生理的に無理。
結局、朝比奈と一緒なんだよな、真田も、瀬野も。
違うのは、三日月先輩、だけ……か。
「あっ、そうだ!律くん、このあと一緒にアイス食べに行かない?今、学校の近くのアイス屋さん期間限定でトリプルでも250円にしてくれるんだって!」
「おお、いいねー。行く行くっ!」
「ちょ、俺も行くしーっ!」
瀬野の提案で、その後3人でアイスを食べに行った。真田のねーちゃんの結婚についての話とか、瀬野のおばあちゃんとのぶらり旅の話とか、アイス食べながらゆっくり話して、寮に戻ったのは夕飯の時間が始まってすぐくらいだった。
部屋に戻って着替えを済ませ食堂へ行って夕飯。三日月先輩たちも窓側のテーブル席で楽しそうに食事をしているのが見えた。
先輩、いつも通りだなー……。なんつーか、俺ばっか、振り回されてるっていうか。
箸をくわえ、味噌汁が入ったお椀を片手に持ちながらも目線は自然と三日月先輩の方へ。
いつ、言おう。てか、時間経ちすぎて「今さらどうした感」が強い気もするんだよなぁ……。突然、俺のことどう思ってるんですかなんて聞いたら「え?なに急に」とかなりそうだし、かと言って先輩の言うとおり昨日のことをなかったことにして今まで通りってのもスッキリしないっていうか……。
「そんなに気になる?梓のこと」
耳元で声がしてハッと我に返る。
「東雲くん、味噌汁こぼしてる」
「え?ぎゃ!」
目線をお盆の上に戻せば、味噌汁の水溜りが小さく出来上がっていた。
「はい、ふきん」
「あ、はいっ」
手渡されたふきんで慌てて味噌汁を拭き取る。手渡した人物は、俺の隣にお盆を置くと椅子を引いて腰かけた。どうやらこれから食事らしい。
「ありがとうございました」
「いいえ」
お礼を言って顔を見る。長めの黒髪に、丸みをおびた大きめのレンズ、ウエリントンメガネがよく似合っている綺麗な顔立ち。
あ、この人、真田と同じ部屋の……えーと、えーと……っ。
「み、水沢先輩は、今からお食事ですか?」
そう、水沢先輩だ。名前が出てきたことに思わず安堵する。
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