dark moon

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「コラ~、真田。寝ないのー」 「う~、だってわかんねーし。眠いしっ」 「明日提出なんだからがんばれー?」 「東雲が俺の嫁になってくれたらがんばれるかも……」 「だったら一生寝てろ」 「わ~っ!ウソですウソです!」 こんなくだらないやり取りばっかで案の定課題はなかなか進まず、やっとゴールが見えたのは11時を回ったところだった。課題が終わってベッドにダイブした真田を見届け、水沢先輩に「お騒がせしました」と挨拶をしてから自分の部屋へと戻った。 ゆっくりとドアを開けると部屋の電気は消えていて、先輩の机の上にある小さな間接照明だけが光っていた。 先輩、もう寝ちゃったのか……。 足音を立てないようにベッドの方へ向かう。ベッドの真ん中で堂々と眠る先輩を上から見下ろす。 つか、こんなど真ん中に寝られたんじゃ俺の入る隙ないんだけど。もうちょっと壁側に行くとか配慮してよ……。 枕元にそっと手をついて、 「あ」 そこで気がついた。 そっか。もう、一緒に寝なくていいんだった。 窓から見えた月はまだ三日月に見えなくもないけど、昨日より確実に欠けて見えた。あと数日もしたら何も見えなくなる、つまり、新月を迎える。先輩の言う通り、本当にあっという間だったな。 つーか……前は、「東雲がいないと眠れない」とかなんとか可愛いこと言ってたクセに、俺がいなくてもぐっすり寝てんじゃんか。一体あれはなんだったんだ。ウソですか。腹立つ~!おまけに、寝顔すらやたらと美人だから余計に腹ただしい。せめて寝顔が変顔だったら勝ったって気にもなれたのに、寝顔まで完璧じゃ余計に敗北感が強くなる。くそ、鼻でもつまんでやれ。 そっと先輩の顔に手を伸ばす。 ―――東雲じゃなきゃ、だめなんだ ―――その顔、俺にしか見せちゃだめだよ?律 触れようとして、思わず動きが止まった。先輩に触れてしまったら、昨日のことが鮮明に蘇ってきてしまいそうだったから。耳元で囁く声色も、触れられた手の感覚も、重なった唇の温度も、甘ったるい香りも、全てを、はっきりと、思い出してしまいそうだった。 は、恥ずかしい……。羞恥心でいっぱいで、全身が熱くなる感覚に襲われる。 朝比奈も真田も瀬野も違う。 三日月先輩だけは特別だなんて、思いたくない。認めたくない。だけど……。
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