dark moon

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「……なーにしてんの」 「ぅわああああっ!!!!」 突然、先輩の目がパチ、と開いたかと思うと手首をがっしりと掴まれていた。これ以上ない恐怖に、声を荒げて驚く。 「ちょっと、ご近所迷惑ですよ、東雲くん」 しーっ、という動作つきで小声で話す三日月先輩に俺の口は鯉みたいにパクパクと動くだけだった。 「お、おおお、起きて、たんですかっ!?」 いつから!?どこから!?なんで!?やばい、パニくってる、俺!落ち着け俺!予想外な出来事に対応できず、心臓がバクバク言ってるのが分かる。 「なに言ってんの。俺の言ったこと忘れちゃった?」 「は、はい?」 「東雲がとなりにいてくれないと眠れない」 ―――東雲が、となりにいてくれないと、眠れないんだよ 先輩はうっすらと開いた目で俺を見ながら、あの日と同じように、少し悲しそうな顔でそう言った。 「また、そういうこと言う……」 なんなんだ、なんなんですか一体。先輩の目的はなんですか、先輩は何がしたいんですか、俺に何を求めてるんですか、俺は一体どうしたらいいんですか。 分からない。何が正しい答えかわからない。だからこそ、先輩は俺が納得できるように答えを教えるべきだ。 俺は、シーツをギュっとつかむと、先輩を真っ直ぐ見下ろした。透き通るような肌に、うっすら開いた凛々しい目元、なんでも分かってる、そう言わんばかりの表情。俺の全てが分かるっていうなら、今から俺が何を聞こうかも分かってますよね、先輩。 もういい、まわりくどい聞き方はしない。 「単刀直入に聞きますけど、三日月先輩は俺のこと、一体、どう思ってるんですか」 あれほどまでに言うのをためらっていた言葉は、驚くほどにすんなりと吐き出された。そう考えると、聞くタイミングは今で間違っていなかったんだって思える。 「どう、思ってる、ね……」 ゆっくりと目を閉じる先輩。時間はとてもゆっくり流れているように感じるのに、自分の心音はそれと反比例するように早くなっている。 血液が体中に巡っているのを感じるくらい、激しく、鼓動がなる。 なんで、俺、こんな緊張してんの。 じんわりと額ににじむ汗。こぼれて先輩に落ちませんように……なんてことまで考えてしまった。 実際は10秒あるかないかの沈黙、だけど俺にはものすごく、長い時間に感じた。 先輩は何か考えたあとで再びゆっくりと目を開けた。今度はちゃんと、しっかり、俺の姿を捉えるように。
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