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「東雲は自分の本当の気持ちが知りたい?」
「当たり前じゃないですか」
自分のことなのに、分からないことがあってたまるか。
「ふぅん……そんなに知りたいなら、続けてみるのもアリなんじゃない?」
……続ける?
「何を、ですか?」
おそるおそる尋ねれば、先輩は俺の後頭部に回していた手に力を入れた。グッと押された拍子に体が前のめりになる。
気づいたときには、先輩の唇が自分の唇に重なっていた。
軽く触れた唇はすぐに離れ、先輩の頭はまたさっきあった大きな枕の中へと吸い込まれていった。その一連の動きは一瞬の出来事なのに、恐ろしくスローモーションに見えた。
「こういうこと」
穏やかな口調で先輩は少しだけ笑ってそう言う。
「……あ、の、全然意味が分からないんですけ……えっ!?」
先輩はどうしていつもこう突拍子もないことをするのだろう。俺の思考が追いつかないほどに、先輩の言動はいつだって突発的すぎる。ある意味、事故と一緒だ。
先輩に腕を掴まれたと思ったら視界がグルンと大きく回って、さっきまでベッドに向けられていた視線はいつの間にか天井へと変わっていた。さっきはスローモーションだったのに、今度は高速で早送りしたみたいに一瞬。
どうなってんだ、一体。
見下ろしていたその美しい顔は、今度は真上にあって、形成逆転。まるで蛇に睨まれた蛙状態で、俺は静かにゴクリとつばを飲んだ。
「自分の気持ちが分からない。それなら、分かるまで俺とこういうこと続けてみるのが超絶鈍感な東雲にとってイチバン良い方法だと思うんだけど。どうかな?」
「どうって言われても……」
「別に俺はどっちでも良いんだ。東雲の嫌がることはしたくないし、今朝そう約束したばかりだし、無理して続ける気はないよ。これでおしまいでもオッケー。ただ、その場合、東雲は自分の気持ちがなんなのか分からないまま過ごしてくことになると思うよ?」
三日月先輩は色っぽくニヤリと笑うと、耳元に顔を近づけた。
「お友達はダメで、なんで俺のことは受け入れられるのか、その理由、知りたくないの?」
「……っ」
囁くような吐息混じりの声に背中がゾクっとする。や、ばい……また、ドキドキが……。
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