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頭の中で何度も何度もリピートされるその声は、澱みがなく、透き通っている。
―――こうすると、安心するでしょ?繋がってる、って感じがして
「……め」
甘く、だけど、どこか温かく、
―――もっと気持ちよくさせてあげよっか
「し……め……」
それでいて、最強に色っぽい。
―――律
俺の名前を、呼ぶ、その優しい声……。
「東雲ってば!」
「っ!!」
ガクン、と体が大きく揺れた瞬間、静かだった空間が一変、ザワザワと一気に騒がしくなる。
「へ?なにっ!?どこ!えっ!?」
「……寝ぼけてんのか」
慌ててあたりをキョロキョロと見回す。見慣れた黒板、見慣れたクラス、見慣れたメンバー、そして、見慣れた……
「……周防」
「はい、周防ですけど?なんだよ今さら。やっぱり寝ぼけてんの?」
黒板上の時計を確認する。あれ、うそ。いつの間にか授業終わってる。いつの間にか休み時間に突入してる。ちょっと待て、俺ってばいつから意識ぶっ飛んでたんだ?
「最近、東雲、心ここにあらずってことが多いけど大丈夫?寝不足?」
「あ~……はは、大丈夫大丈夫」
うそです。全然大丈夫なんかじゃないです。現にほら、さっきの授業のノート、最初の3行で止まってる。その後白紙。こんなこと今までなかったのに!
周防に見られないように急いで閉じると机の中に突っ込む。
「てか、次、移動教室。そろそろ行かないと遅れるよ?」
「え、あ、そっか!」
教科書とノート、ペンケースを持って立ち上がる周防を見て、今度は慌てて机の中から次の授業の道具を取り出す。
「東雲、周防、行こうぜー」
かったるそうにくわ~っと大きなあくびをしながら朝比奈がドアのところで声を掛ける。朝比奈ですらもうすでに用意出来ているだと!?いつもは俺が「行こ~」って言って朝比奈を急かす側なのに!
お、おかしい。おかしすぎるよ、俺。
もうね、ヘンテコになっちゃってる。
もちろん、ヘンテコになってしまった原因はちゃんと分かってるんだけど……。
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