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「生物の教室ってな~んであんな離れたとこにあんのかねぇ。ふわあ~……やんなっちゃうわ」
「あんなってたかだか2階上なだけだろ?てか、なに。東雲だけじゃなくて、朝比奈まで寝不足?」
そう、原因は分かっている。
「昨日オンラインで真田とゲームやり始めたら止まらんくなって……ふわああ~……あ?うわ、出たよ、歩くフェロモン」
朝比奈の言葉に心臓だけじゃなく、体中がドキっとして、思わず持っていた教科書やノートを床に落っことした。
別名・歩くフェロモン。
それはつまり、
三日月梓、その人。
俺がおかしくなってしまった原因は、まさにこの人。この、歩くフェロモンのせい。
三日月先輩と言う名前を聞くだけで無条件に体がビクッとするし、先輩のことを考え始めるとまわりが無音になって他の情報が一切入ってこなくなる。
キラキラと輝く髪の毛に、目の眩むような笑顔、甘い言葉が吐き出される艶のある唇。廊下の向こうからやってくる先輩は、友達と楽しそうに会話に花を咲かせていた。まわりの女子の「カッコいい~」なんてヒソヒソ声などまるで無視して。
友達に向けられたその笑顔は何度も……というかほぼほぼ毎日見ている笑顔、言ってしまえばもはや見飽きてしまう笑顔なのに、どういうわけか、俺の目はその笑顔を追っているわけで……。
あ。目合った。
先輩は俺の視線に気づくとニコっと笑って小さく手を振り、そのまま俺の横を通過し去って行った。
「ああ、そっか。東雲と三日月先輩って寮で部屋割り一緒なんだっけ?」
「……」
「おーい、東雲ー?」
「……え?なに?」
「なにって……どんだけボーっとしてんの」
「え?」
やばい。ほらね、今完全に無音の世界に突入してた。周防には申し訳ないけど、なんて言ってたんだろ?ホント、全然聞いてなかった。いや、聞こえなかったわ。
「東雲と三日月先輩、寮の部屋一緒だよなって話だよ」
床に落ちた教科書類を拾い上げ、少し呆れたような顔で俺に手渡しながら朝比奈が言う。
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