12443人が本棚に入れています
本棚に追加
*****
***
**
階段を降りていくと、私の足音に気付いたのか、更科先輩がゆっくりとこちらを見上げた。
眩しそうに顔をしかめ、目の上に手をかざす。
「――そら?」
「……」
黙って立っていると、先輩はフイと前を向いてしまった。
階段に腰掛けたまま、本の続きを読み始める。
「戻った方がいいんじゃない? もう予鈴鳴ったよ」
先輩の柔らかな髪が、陽の光を帯びて金色に輝いている。
きれいなえりあしに見惚れていると、授業の始まりを知らせる本鈴が聞こえてきた。
「先輩こそ……」
小さな声で、私は呟いた。
「いつもいつもサボってると、卒業できなくなっちゃいますよ」
すぐに何か言い返して来ると思ったけれど、返事はなかった。
自分の発した可愛げのない言葉が、非常階段の隅にぽつりと置き去りにされた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!