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 放送を聞いた翌日の昼休み。  わたしは2階の階段の手すりにしがみつくようにして遥か上の階を見上げていた。  3年の教室が並ぶ4階に上がるのは、入学したばかりの私にとってかなり勇気のいることだった。  ましてや、たった一人で放送部の見学を申し込みに行くのだから、緊張するなというのは無理な話だ。  自分自身を奮い立たせながら、長い階段をやっとの思いで上り切り、壁の向こうにそっと顔だけ覗かせる。  昼休みが始まったばかりだからか、廊下には数人の生徒の姿が見えるだけだった。  3-Bと書かれた札を遙か遠くに見つけ、私は一旦首を引っ込めた。  目の前の壁におでこを付け、目を閉じる。  ――どうしよう。  やっぱりやめとこうかな……。  階段を上る間に生じた迷いは、ここに来て最高潮に達していた。  合唱部に入る約束をした友達には、放送部のことはまだ何も言っていない。  ――見学なんかやめて、大人しく合唱部に決めようかな。  今ならまだ引き返せる。このまま、何事もなかったように階段を下りて――。 「わ、びっくりしたあ」  すぐ後ろで響いた声に飛び上がり、慌てて振り返る。 「――壁に張り付いて何やってんの。擬態?」  いつの間に階段を上がって来たのか、白衣を着た男性が分厚い本を抱えて立っていた。  ゆるいパーマをかけた茶髪は教師にしてはチャラい気がするけれど、確か入学式の時、職員席にスーツ姿のこの人を見た覚えがある。  女子生徒の誰かがかっこいいと騒いでいた。 「あれ。――1年生じゃん」  白衣男は何の躊躇もなくずいっとこちらに近づいて来て、まじまじと私の顔を見つめた。
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