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――それにしても、どこに行っちゃったんだろう……。 首を傾げ、考え込んでいると、カーテンが再び大きく膨らんだ。 入り込んで来た風から、ほんのり雨の匂いがする。夕立でも降るかもしれない。 窓を閉めておかなければ。雨が吹き込んでは大変だ。 窓際に立ち、カーテンを開けたところで、私はぴたりと動きを止めた。 ――いた。 向かいの校舎の非常階段に、更科先輩の姿があった。 気怠そうな体勢で階段に腰掛け、文庫本を広げている。 心拍数が一気に上昇したのが、自分でも分かった。 幸いなことに、敵はまだこちらには気付いていない。 カーテンの端から目だけ覗かせ、先輩の周囲を慎重にうかがったが、他に人影はないようだ。 「私が行くまで、いなくならないでね……」 祈るように呟いて、私はじりじりと後退を始めた。
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