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「それがなんだか不安で」
「なるほどなあ、いづきって意外と嫉妬深いんだな」
などと言う鈴村も人のことは言えないが今そのことには触れないでおく。とにかくいづきは悠太に言いよる女子が増えて困っているらしい。しかしなにも心配はいらないだろう。
「あの平沢が女子を相手にすると思うか?」
「思わないけど……もうひとつ不安になる理由があってさ」
「へえ?」
それは興味深い。「どんなこと?」と鈴村は首をかしげる。いづきは口ごもっていて、少し言いづらそうにしていた。ちらちらと悠太に視線を送ったりも。悠太は未だ女子に捕まっているようで、もう暫くはかかりそうだった。
「その、俺たち付きあってから一ヶ月ちょっと経つんだけど……ってこんな話鈴村にしていいのか?」
「構わん、気を使われるほうが辛い」
「そ、そっか」
鈴村の顔があまりにも真剣だったので、いづきはこのまま話を続けることにする。
「俺たちまだ、えっと……恋人らしいことしてなくて」
そう言いながら、ぽっと頬を赤く染めるいづき。鈴村は一瞬顔が引きつりそうになったが、ぐっと堪えて微妙な反応を見せる。
「恋人らしいことって具体的には?」
「えっ……」
「まさかいづきやらしいこと考えてるんじゃ!?」
「ち、違うから!」
やだ破廉恥ね、と鈴村がこちらを見てくるので慌てて否定する。余計に顔が赤くなったものだから、説得力はない。しかし本当に違うようだ。
「そういうのじゃなくて! や、休みの日に二人で出かけたり……手、繋いだりとか」
もじもじと指を動かしているいづきは、まさに恋する乙女のそれだった。周りにピンク色の花が飛んでるように見える。間違いなく幻覚なので、鈴村はごしっと目をこすった。
「はー、ピュアですなあ」
「うう……」
「そういうことがないから尚更不安なんだな?」
鈴村の言葉にいづきは頷いた。鈴村はいづきらしい純粋な悩みでよかった、と安心する。と同時に自分にどうこうできる問題じゃなさそうだとも悟った。
こればかりは二人のペースで進めていくものだと思うし。今の鈴村にできることとすれば……。
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