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「待ってたの?」
「うわっ」
いつのまにか後ろにいた悠太に声をかけられ、いづきは驚いて跳ねあがる。鈴村は悠太の姿が見えていたので驚きはしなかった。
なにを話していたのか、悠太にはばれていないようだ。
「あー!」
と、ここで鈴村が大きな声をあげる。悠太は片眉をあげて「なに?」そう冷たく言った。いづきはいづきで大きな声にびっくりしたせいか縮こまっている。
「いたたたた、なんかお腹痛くなってきたなー」
「え?」
「俺トイレ寄ってから帰るからさ! 二人で先に帰っといて! じゃ!」
痛いと言ってお腹を押さえながらも、俊敏な動きでその場を後にする鈴村。いづきが呼びとめる声も完全にスルーされてしまった。
そう、これは鈴村から悠太に向けてのメッセージである。ただの浅い関係であれば伝わらないメッセージだが、鈴村と悠太は違う。
鈴村の読みどおりなにかを察した悠太は、いづきのように鈴村を止めはしなかった。
「鈴村ってお腹弱いよな」
「……」
「悠太?」
なにも言わない悠太を不思議に思い、顔を覗きこむ。悠太は困ったような、それでいてどこか楽しそうに小さな笑みを浮かべていた。
「どこか寄っていく?」
「……ええ!? そ、それってもしかして」
「デートだね」
「おお……」
耳まで真っ赤にして目を伏せるいづき。そんな露骨な反応をされるとこちらまで恥ずかしくなってくる、と悠太は軽く頬をかいた。
「行きたいとことかあるの?」
「うーん。そう言われると……」
いざどこに行きたいのかと聞かれるとすぐに出てこない。暫く考えこんでいたいづきだが、ふとなにかを思いだしたのか「あ」と声をあげた。
行きたいところが見つかったのだが、悠太的には微妙な場所だと思う。いづきは不安げに眉を下げて、悠太を見つめる。
「言ってみて」
「えーっと、パンケーキ屋さん」
「……」
パンケーキと聞いて真っ先に「女の子か」と思った。いづきは自分と違って甘いものが好きだから仕方がないのかもしれない。
自分は食べられないが、いづきが行きたいというなら行こうではないか。
悠太が「いいよ」と言うと、いづきの表情はぱあっと明るくなった。
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