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「おいひー!」
分厚いパンケーキの上に生クリームとバナナ、チョコレートソースがトッピングされていて、いづきは幸せそうにそれを頬張っている。
店内は悠太が思っていたよりもカフェのようにお洒落で落ちついた雰囲気だった。しかしパンケーキ専門店ということもあって、客層は女性同士か男女カップルの組みあわせが多い。
「あ、ごめん。悠太甘いの苦手なのに……」
「大丈夫だよ」
パンケーキ以外にもメニューがあればよかったのだが、残念なことになにもなかったのでホットコーヒーだけを注文した。
それにしても自分が苦手なもので好きな相手が幸せそうにしているのは、見ていてなんだか不思議な気持ちになる。
「そういえば悠太はなんで甘いの嫌いなんだっけ? なにか理由あった?」
「理由ねえ……。脳への刺激が強すぎるのかな。普通にあの甘ったるい味が苦手なのもあるけど」
「脳?」
甘いものを食べるということは、人によってはストレス解消になる。脳が満たされているからだろうか。それは悠太からすれば強い刺激となる、そういうことか。いづきはなんとなくだけれど理解することができた。
ここでいづきは気づく。周りの女性客たちがちらちらと悠太を見ていることに。
む、と頬を膨らませた。
「なに? 頬袋にパンケーキ詰めてるの?」
「詰めてないから! ……今さらだけどさ、悠太ってモテるよな」
本当に今さらだけど! とふてくされたように言ってパンケーキを口に運んでいる。
ここでようやく悠太は女性たちからの視線に気がついた。まずいづきと一緒にいると周りのことなんて気にならなくなっている自分に少し驚いた。
そしていづきの言葉の意図もわかった。
「好きでモテてるわけじゃないよ」
付きあう前にも同じことを言っているような気がする。前に聞いたときは皮肉っぽいなと思っていたが、今聞くとまた違った意味に聞こえた。それでも悠太が女性に好かれていることに変わりはない。
こんなことを考えるなんて俺も面倒な男だな、といづきは悲しくなった。
「やきもち?」
「え!? ち、ちが……」
最初は否定しようとしたがここで嘘をつく理由はないし悠太にはわかってほしいと思ったので、いづきは小さな声で「ごめん」と謝った。
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