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「なんで謝るの」
「だ、だって」
「僕は嬉しいよ」
申し訳なさそうにしているいづきに、悠太ははっきりとそう言いきった。悠太の言葉を聞いたいづきは数回ぱちぱちと瞬きをした。嬉しい? と首をかしげている。
「やきもちをやくってことは、それくらい僕のことが好きってことでしょ」
「そっ、そりゃあ……そうだよ」
ものすごく恥ずかしかったが、事実なので認めるしかない。今度は恥ずかしさを誤魔化すようにパンケーキを一口食べる。
顔が熱い、きっとまた赤くなっているだろう。悠太に見られてると思うともっと熱くなった。
ちらっと悠太を見やれば、なにやら楽しそうな微笑んでいた。意地悪な笑みにも見える。
「な、なんだよ」
「かわいいなと思って」
「ひいい……!」
ぼんっと頭から湯気が出るんじゃないかというくらい、いづきの顔は赤かった。第三者から見れば熱があるんじゃないかと思われるほどだ。
悠太は平然と恥ずかしいことを言ってのける。これじゃあ自分の身が持たない。
「かわいいって言うの禁止!」
「なんで?」
「恥ずかしいから!」
ぷいっと顔を背けて、怒ってないだろうに怒ったように眉をつりあげている。
その様子がどうにもかわいくて仕方がない。というかかわいいところしかないのに、言うななんて酷いことを言うもんだ。悠太は涼しげな顔を浮かべながらも、そんなことを考えていた。
それからは学校のことやいつもと変わらない会話を交わし、たっぷりと二人の時間を満喫した。美味しいものも食べられたし、今のいづきは幸せで溢れている……はずだった。
しかしなぜだ。帰り道、家が近くなるにつれて寂しさが爆発しそうだった。
なるほど、これが本当の恋というものか。いづきはその場で立ちどまる。悠太がそれに気づいたのは二、三歩前に進んだときだった。振りかえっていづきの名を呼ぶ。
「どうしたの?」
いづきはなにも答えず、ただ無言で悠太へと歩みよる。そして悠太の指の先を、ちょこっとだけつまんだ。
「ん?」
「……手、繋ぎたい」
この一ヶ月間、なかなか言いだせなかったこと。今なら言えそうな気がして言ってみた。手を繋げば寂しさも紛れると思ったから。
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