[後日談]

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「いいよ、繋ごう」 そう言って一度手を引き、今度は自分からいづきの小さな手を握った。寒いのか少し手が冷たくなっている。それを温めるように、ぎゅっと優しく力を込めた。 「えへへ」 悠太に手を握られたいづきは、嬉しそうに顔を綻ばせている。それもつかの間、「でも」と弱々しい声を出す。なにか不安なことでもあるのかと思い、悠太は首をかしげ言葉のつづきを待つ。 「学校の人とかに見られたらどうしよう」 学校内で二人が恋人同士だと知っているのは、鈴村と蓮、そして梅林の三人だ。それ以外には話していないし、簡単に話せることでもない……と思っていた。 やっぱり繋がないほうがいいかも、いづきはそう考えなおし手を離そうとした。けれど悠太は手の力を緩めることはしなかった。 「悠太?」 「見られて困るようなことしてる?」 「え……」 「僕は知られてもいいと思ってるよ」 それだけ言っていづきの手を引いたまま歩きはじめる。「知られてもいい」その言葉にいづきはどうしようもなく幸せな気持ちになると同時に、まだ帰りたくない。一緒にいたいと強く思った。 でもなんだか言いづらい。わがままだと思われたら嫌だし、面倒くさいやつだと思われるのも嫌だ。 そうこうしているうちに、家の前までついてしまった。ついたはいいが、なかなか悠太の手を離すことができない。悠太は悠太で、いづきから離すのを待っているようだ。 「また明日」そう言って手を離すだけ。頭の中で考えるのは簡単だが、なかなか実行に移せない。 恋愛ってこんな感じなんだ。幸せな分寂しくなってしまうんだ。 手を握ったまま目を伏せていると、なにか感じとったのか悠太が「あー」と口を開いた。 「……部屋、あがる?」 「え? へ、部屋?」 「うん、僕の部屋」 「……!」 いづきの目がきらきらと輝きだした。すごくわかりやすいな、と悠太は思わず笑ってしまう。 いづきは思っていた以上に寂しがりやらしい。付きあってからわかることだ。これからもそういうことが増えてくるだろう。 そう思うと悠太は楽しみで仕方がなかった。
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