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平沢家で夕飯をいただいたあと、いづきは悠太の部屋でテレビゲームをしつつ談笑を交わしていた。楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、気づけば時刻は二十一時を回ろうとしていた。
長居しすぎもよくないよな、そう思い身支度を始めると……。
「泊まっていけば?」
「ええ!?」
思いもよらぬ悠太の言葉に驚いて、持っていた鞄を落としてしまう。そんなに驚くことでもないのだろうけれど。
一気に心拍数が上がってしまう。べつにやましいことを考えているわけじゃない。朝まで一緒にいられるということにどきどきしているだけだ。そういづきは自分に言いきかせる。
「泊まらない?」
いづきの顔を見ればなにを考えているかすぐにわかるくせに、悠太はわざとそう聞いた。
いづきはゆっくりと顔をあげ、悠太の目を見ながら首を横に振った。
悠太はその頭をよしよしと撫でた。
明日も学校だが家は隣だし着替えなどには困らない。幼馴染み万歳! といづきは有頂天になる。
悠太がお風呂に入っているあいだ、いづきは部屋でおとなしく待機していた。
先にお風呂に入らせてもらったので、体はぽかぽかだ。
悠太から借りた部屋着は少し大きく袖があまっていて、どこか優しい匂いがする。それだけで胸がいっぱいだったが、もっと贅沢をしたくて勢いよくベッドにダイブした。枕に顔をうずめる。
我ながら気持ち悪いことをしていると思う。しかしこれは仕方のないことなのだ。恋とはそういうものなんだ!
「はああ……好き」
「それはどうもありがとう」
「わああ!?」
独り言のつもりで呟いた言葉に反応があったので、慌ててベッドから起きあがる。見れば悠太がじっとこちらを見つめていた。
恥ずかしい行為を見られてしまったいづきは、かあっと顔や耳全体を赤く染める。
「の、ノックしろよ!」
「僕の部屋なんだけど」
「それでもノックして!」
「はいはい」
いづきを適当にあしらってベッドの上に腰を下ろす。ぎし、とベッドの軋む音が鳴りいづきはぴくりと肩を揺らした。
変なところを見られてしまったし、緊張してしまう。
いや、べつに! やましいことは! 考えてませんので!
心の中で誰かに向かってそう叫ぶいづき。
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