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「僕だって緊張してるんだけど」
「う、うん……伝わったかも」
「そう。それならよかった」
無事理解を得ることができた悠太は、いづきから離れてぽふっと寝転がった。
そんな悠太を見ていづきは「あれ」と目をぱちぱちさせる。今の流れはそのままキスのひとつやふたつするところでは? と思ってしまったのだ。
あれほどやましいことは考えていないと言ったのに。
いや、付きあって一ヶ月でキスなんて早すぎるのかもしれない。しかし今の時代中学生でも済ませていそうなことだし……いや、でも。
いづきの頭の中はキスのことでいっぱいになっていた。
「どうしたの?」
「えっ、べ、べつに」
どうせなにを考えているのかわかっているくせに。
だがキスを求めすぎるのはよくない気がするので、いづきはそれ以上の反応を見せることはしなかった。
こういうのは自然と行われていくのだ。そうに違いない。
「明日も早いしもう寝よう。電気消すよ」
「は、はーい」
部屋の明かりが常夜灯だけになり、完全に就寝モードとなった。
こうして一緒に眠れるのは嬉しいし幸せだけど、やっぱりなにもないのは寂しい気がする。それはわがままだろうか。
「おやすみ」
常夜灯の明かりをぼんやりと眺めていると、悠太にそう声をかけられる。返事をしようと悠太のほうに顔を向けると、ぷにっとした温かい感触が頬に触れた。
頬に軽くキスをされたのだ。思考が追いついていないのか、いづきはぽかんと口を開けて間抜けな表情を浮かべている。悠太は楽しそうに小さく笑って、いづきの前髪をかきあげて今度は額に唇を落とす。
「あ、ああ……」
「ん?」
本当にずるい男だ。心の中を見透かして自分が求めていることをしてくれる。
嬉しいけど、なんだか悔しい。でもそれは嫌な悔しさではなくて。もうなんだか言葉にできない気持ちだったから、いづきも勢いで悠太の頬にキスをした。
「悠太の肌すべすべだ」
「……ふふ」
「あ、幸せそう」
悠太が笑ったのにつられて、いづきも自然と笑顔になった。ぎゅっと悠太に抱きついて、「おやすみ」と一言告げる。
こんなに幸せな気持ちのまま眠りにつくなんて、初めてだった。
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