近くて遠い人

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あんな態度をとっているが、悠太も男だ。 健全な男子高校生だ。ちゃっかりあの状況を楽しんでいたとしてもおかしくはない。 「興味無い振りしてよ、裏では結構食ってそうだよな」 「まあ……男だし。有り得るな」 「だよな!」 いづきに同意してもらえば、何故か嬉しそうに目をきらきらと輝かせる鈴村。 同じ意見の人がいると、言葉じゃ表せないほど嬉しいものなのか。分からない。さっぱりだ。 「朝から変な話しないでよ。これだから男子は」 「谷原もあそこに混じりたいと思っ……痛い!」 言い終わる前に頭を教科書で叩かれてしまった鈴村は、痛そうに叩かれた部分をさすっている。 彩夏は自身の腕を組み、ふんとそっぽを向いた。 怒らせてしまったらしい。 「なんだよー、叩くことないだろ!なあ、いづき」 「頼むからそれ以上俺に同意を求めないでくれ」 そう言ってやれば、鈴村は拗ねたように口を尖らせて前を向いた。 話し終えたいづきがもう一度突っ伏してやろうかな、なんて考えていると…… 教室の扉が音を立てて勢いよく開いた。 それとほぼ同時にホームルーム開始のチャイムが鳴り、先程まで騒がしかった女子生徒らはそれぞれ自分の席へと戻っていく。 少し焦りながら。 扉を開けた人物が教室に足を踏み入れた時には、みんな既に着席していた。 その人物は扉を閉めるときも乱暴だ。 その証拠に閉めたはずの扉が跳ね返り、数センチ開いている状態のままになってしまっている。 それでもそいつはそんなことなど気にせず、黒板の前まで歩いてきた。 教卓の上に持っていたものを置き、ため息をついて生徒らを見渡す。 ……教卓、ということは、担任。 扉を乱暴に開閉、怠そうな足取り、教室に来て早々ため息。 教師らしからぬ行動の数々ではあるが、紛れもなく目の前にいるのはいづきたちのクラスの担任。 梅林直人(うめばやしなおと)だ。 女子生徒らが慌てて自席に戻った原因は、まさにこれ。
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