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「おい平沢、起きろ」
悠太のところまで行き、持っていた教科書で数回机を叩いて相手を起こそうと試みる梅林。
その机を叩く音が、静かな教室に響く。
悠太の体が少し反応した。
「ん……」
そんな細い声をもらして、顔をゆっくりとあげる。
寝ていたため自分が今どういう状況に置かれているか分からないのか、首を傾げていた。
はらはらする。
いづきは眠気なんて吹っ飛び、教科書で自身の口許を隠しながら二人の様子を見守る。
「平沢、俺の授業で寝るとはいい度胸だな」
未だ夢と現実の区別がついていないであろう悠太に、梅林はいつもと変わらない地に響くような声でそう言った。
地割れしそうだ。
「……ああ、僕寝てました?」
眠そうに目を擦ったあと、両手を上に伸ばして大きなあくびをする悠太。
その態度から反省の色は伺えない。
あの梅林になんという……。
「他の授業はまあいい。俺の授業で寝るのは許さん」
梅林の言葉に殆どの生徒が「いやいやいや」とツッコミを入れたくなったに違いない。
空気が少し変わったのが、何よりの証拠である。
「すみません。先生の授業受けるくらいなら寝た方がましかと思いまして」
「あ?」
「だって聞かなくても分かるんですもん」
それは成績がいいからこそ言える言葉であった。
いづきの位置からでは悠太の顔は確認できない。
しかし、これは間違いなく笑っている。それも楽しそうに。
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