信じたくない出来事

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**** 「いづきー、帰ろうぜ!」 放課後。 すっかり悠太を尾行する気がなくなった鈴村は、帰りのホームルームが終わるなりすぐさまいづきにそう声をかけた。 帰りたい。 それがいづきの本心ではあったが、机の上に広げたプリントがそれを許さない。 「ってあれ?居残り?」 「おう」 「一緒に残ってやりたいのは山々だが……」 「いや帰れよ」 「冷たいなおい!帰るけどさ!用事あるし!」 あの鈴村に一体どのような用事があるというのだろうか。 プライバシー云々に関わることなので、聞きはしないけれど。 人を尾行した相手に気を使う必要はなさそうだが。 「そんじゃ、頑張れよ!また明日なー」 「またな」 頑張れよ、なんて他人事のように言ってくれる。 ……他人事で間違ってはいない。 しかし今のいづきにとって「頑張れ」という言葉は苦痛にしか過ぎなかった。 それくらい、理科が嫌いなんだ。 筆箱からシャーペンを取り出しペン回しというのをしながら、軽い気持ちでプリントに目をやる。 硬直。 思わず手からシャーペンが滑り落ちそうになった。 慌ててシャーペンを握り直し、プリントを凝視した。 予想はしていた。 していたけど…… 「難しすぎる」 声に出してしまうほど、改めて見るとプリントの内容は酷かった。 とても理科が苦手よりの嫌いないづきには、解けない。 あの鈴村は解けたのだろうか? 解けたからこそ奴は何食わぬ顔をして帰っていったのだ。 こんなことなら無理矢理にでも引き止めて、教えてもらうんだった。 後悔しても遅い。 顔をあげて教室全体を確認する。 彩夏はいない。部活だ。 悠太もホームルームが終わってさっさと帰っていった。 他に教室に残っているのは数名。 おまけに言えば女子ばかり。 ……彩夏ならまだいい。が、他の女子に勉強を教えてもらうのは、男として気が引けた。
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