信じたくない出来事

14/20

8489人が本棚に入れています
本棚に追加
/1066ページ
この音はどこから聞こえてくる? ……ここではない。ここには誰もいない。 だとしたら……隣か。 隣は理科準備室だ。 理科室の奥にある扉から、そこへ移動できる。 廊下側の扉からでも入れるが、あそこはいつも鍵がかかっていて入れない。 いづきはごくりと唾を飲み込み、準備室へと繋がる扉の方まで歩いていく。 それはもう、誘い込まれるように。 そこに近づいていくにつれて、音が大きくなってくる。 間違いない。 これはいづきが健全な男子高校生だから、想像力が豊かになっているわけではない。 間違いなく、真っ最中だ。 扉の前まで来ると、扉が少し空いていることに気がついた。 そこから漏れる音声。 気づけばいづきは汗をかいていた。 顔が熱い。年頃の男子にはあまりにも刺激的すぎる。 その場で膝をつく。 一体……誰と誰が? 理科準備室ということは、梅林? 梅林と……誰だ。 まさか、生徒と? 女子高生に手を出しているというのか。 ……有り得ないことはない。 失礼ではあるがそんな風に考えてしまった。 そっと扉に触れ、ほんの少し軽く押す。 扉に触れたときに分かった。 手のひらが汗でびっしょりだということに。 本来なら覗きなんてよくないことだ。 かと言って、ここまで来て引き返せるわけでもなかった。 そこまでの余裕が、今のいづきにはない。 先程よりも少しだけ広くなった隙間に近づいて、 よせばいいものを、いづきは覗き込んでしまった。 そう。覗き込んでしまったのだ。
/1066ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8489人が本棚に入れています
本棚に追加