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いづきは美鈴のことをよく知っている。
自分自身認めてしまうのは自意識過剰だと思われるかもしれないが……
美鈴は超がつくくらい、兄であるいづきのことが好きなのだ。
好きで好きで堪らない相手が涙を流しているところを目の当たりにでもしてみろ、きっと美鈴は取り乱してしまうだろう。
それは避けたい。
美鈴のこともあるが、純粋に妹に泣いていたとばれることも嫌だった。
なんとかして切り抜けなければ。
「……あれ?お兄ちゃん、泣い……」
「てない!泣いてないから!」
美鈴に言葉を続けさせまいと、必死に声を張り上げる。
当然いづきの反応に驚いた美鈴は、びくっと肩を震わせた。
なんだか申し訳無くなる。
「で、でもお兄ちゃん……その、跡が……」
「え?あ、ああ、これか?いやべつに泣いたわけじゃないぞ」
「泣かなきゃそんな跡はつかないよ?」
「美鈴は気にしすぎ!ただの汗だよ、汗。と、とりあえず家入ろ!」
半ば強引に話を中断させて、鍵を握り直し鍵穴に差し込もうとする。
が、また差し込むことができなかった。
美鈴と話したことによって落ち着きを取り戻しつつあったのだが、今度はべつの理由でうまくいかないようだ。
美鈴の視線。
背中に美鈴の視線が刺さっている。
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