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自室に入り、身を任せるようにしてベッドへと倒れ込んだ。
着替えなんて後回しだ。
枕に顔を埋めて、目を閉じる。
が、すぐに見開いた。
それはもう、目が乾くんじゃないかというくらい。
だめだ。目を閉じるのは。
閉じると理科準備室でのことが、ものすごいスピードで再生されてしまう。
フラッシュバックにも似た現象。
生々しい、あの出来事。
吐息、におい。
幼馴染みの見たことも聞いたこともない顔と声。
その全てが脳裏に焼き付いてしまっている。
昼に食べたものが、逆流しそうになった。
う、と口を手で押さえる。
あの時は逃げ出すことでいっぱいいっぱいだったが、こうして部屋で一人考えていると……
自分は本当にとんでもないものを目の当たりにしてしまったのだ、という言葉にはしにくい感覚に襲われた。
男同士で、あんなこと……。
幼馴染みはホモだった……
いつから?
本当にそうなのか?
無理矢理襲われたとかではなく?
違う、違う。それは絶対ない。
襲われた人間が、あんな顔をするわけがない。
キスをして、なんて頼むはずがないんだ。
どうして……。
関係ない。もう幼馴染みなんて関係ないはずだった。
あの男がこれから先どんな人生を歩んでいくかなんて、自分には関係ないと思っていた。
自分を避けた幼馴染みなんて……
「関係ない、はずなのに……」
どうしてこんなに、
引っ掛かってしまうのだろう。
信じたくないなんて、思ってしまうのだろう。
「分かんないよ……どうしたらいいんだよ……!」
それからいづきは、
一睡もすることなく朝を迎えてしまった。
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