微かに伝わる温もり

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結局一睡も出来なかったいづき。 悠太の家がある方ではない窓のカーテンを開けて、外の景色を睨み付ける。 眠い。 けど眠れない。 目を閉じる度にあの出来事が鮮明に映し出される。 瞼に貼り付いて剥がれない。 何度も何度も目を擦ってはみたが、それが剥がれることはなかった。 外の眩しさに嫌気がさし、カーテンを乱暴に閉めた。 さっさと制服に着替え一階に降りて、顔を洗ったあとに用意されていた朝食を頂く。 「お兄ちゃんおはよう!今日はいつもより早いね」 昨日のことなどすっかり忘れたのだろうか、美鈴がにこにこと微笑みながらそう声をかけてきた。 いつもならいづきが起きた頃には、美鈴はもう家にいないはずだ。 部活の朝練とやらがあるから。 しかし今日はいる。 時計を確認してみる。 ……通常ならまだ眠っている時間帯だった。 寝ていないから感覚がおかしくなっているのかもしれない。 気は進まないが、今日は気晴らしに早く登校してみようか。 「お兄ちゃん?」 「あ、お、おはよう」 「ふふ、朝からお兄ちゃんとお話しできるなんて美鈴は幸福者だなあ」 そうは言っているが、もう出ていってしまうらしい美鈴。 おかしなところはないかと、鏡を見ながらチェックしていた。 女子だなあ……。 「それじゃあ行ってきます!」 「おう、気を付けてな」 片手をあげて、微笑む。 すると美鈴は嬉しそうにはにかんで、小走りで玄関の方へと向かっていった。 玄関近くにあるトイレから出てきた母とのやり取りが、ここまで聞こえてくる。 それを聞きながら、朝食を口に運んだ。 それから数分後。 起きて二階からおりてきた父に、すでに起きていたことを驚かれたが割りとどうでもよかった。  
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