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東雲と別れて
家に向うタクシーの中。
俺はこの先、
どうするべきなのか
じっと考えていた。
香織の幸せを願って
香港に戻る事を
決めた東雲の思い。
けれど、報われないと思っても
香織は東雲に惹かれていた事を
俺は知っている。
香織が小野を選んだと東雲は
言っていたけれど…
本当なのだろうか?
家の前に着いて
タクシーを降りたと同時に
沙織が迎えに出てくれる。
いつものように満面の笑みで
「拓馬さんおかえりなさい」
そう言ってくれる沙織を
見つめながら…
俺は8年ぶりに
沙織に微笑んだ。
「ただいま、沙織」
その言葉に沙織の表情が
ゆっくりと変化して
ポロポロと涙を溢れさせて行く。
「…拓馬さん…今…
笑ってくれたよね…?」
東雲と沙織の関係に
気付いてからの8年間…
俺は沙織に
笑顔を向ける事なんて
一度も出来なかった。
けれど…
今日の東雲の言葉で…
やっと俺は沙織ともう一度
向き合おうと覚悟が出来たんだ。
「沙織…
8年間も辛い思いをさせて
申し訳なかった…。
ひどい事をして来た俺を
責めもしないで
ずっとここにいてくれたお前に
心から感謝している。
お前が許してくれるのなら…
もう一度俺達の結婚生活を
一からやり直したい。
…愛してるよ、沙織」
呆然と立ち尽くしたまま
俺を見つめて涙を流す沙織を
そっと抱き寄せた。
小さく震える沙織を
抱きしめながら…
俺は心の中で
ひとつの結論を出した。
なぁ、東雲…。
お前も今度こそ…
幸せになる方法を見つけても
いいんじゃないか?
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