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「恭一、最近冷たくない?
全然会ってくれなかったし」
それはある日の正午。
眩しい光が差し込めるベッドの上、
白い肌をあらわにしたまま
呟くヒトミに笑みを見せる。
「変わらないだろ。お前も俺も」
「それどういう意味?」
「離婚出来ないじゃん」
その言葉に顔を歪めた彼女の
乳房に唇を這わせた。
ヒトミとの付き合いも
今年で5年目。
俺のプロデュースで
トップアーティストの地位を
手にした彼女はIT関係会社の社長と
3年前に結婚した。
「離婚して欲しいの?」
「別に。
して欲しいとは思わない」
「なんで?」
「俺も恋したいから」
「何それ。私とは恋じゃないの?」
「うん、お前とは不倫」
プクッと膨れた彼女にキスを落として
その腰を捕え沈み込ませる。
虚しいだけのセックス。
いつまで俺はこんな事を
やってるんだろう。
あの人…
前島香織という女と出会ってから
あんなにも愛されてる遥斗が
羨ましくて…虚しくて。
俺は…
あの人に恋をしたんだろうか?
「恭一っ…」
俺の下で喘ぐヒトミを見つめながら
頭の中で彼女の顔を思い浮かべる。
遥斗じゃなかったら…
確実に俺は彼女を
奪っていたかもしれない。
そう思うくらい…
前島香織は素敵な女性だ。
「も…もっと…」
恍惚の表情を浮かべるヒトミから
すっと自分を引き抜いた。
「恭一?」
「ゴメン、もう無理」
「えっ?」
「終わりにしよう」
「なんで?もう私に飽きた?」
クスッとヒトミに笑みを落として
静かに囁いた。
「好きな女と待ち合わせしてるから」
「はぁっ?」
ポカンとするヒトミの頭を
ポンと撫でて俺はシャツを羽織った。
ホテルの部屋から出て行く
俺の背中にヒトミが声を掛ける。
「恭一、眼鏡は?」
「いらない。捨てておいて」
今日は…
彼女に眼鏡をかけない
”僕”を見せてやろう。
だって ”僕”は…
遥斗の鏡像。
一瞬だけでも彼女が愛しそうに
見つめてくれる、
その瞳だけで僕は満足なんだよね。
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