前篇

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 騎士様が驚き、周りの生徒も悲鳴を上げる。破壊した瞬間、粉々になったブラッド・クリスタルの欠片から強い禍々しい光が発せられ、欠片が風もないのに、部屋の中央でつむじ風を受けたかのように回り始めた。強い光は音楽塔だけではない。聖堂、実験室の方からも隙間から漏れる強い光が見えた。三点はまるで三角形を描くかのようにあり、その三角形の中央である中庭は更に強い光に包まれている。音楽塔の最上階から中庭に不気味な魔方陣が浮かび上がっているのが見えた。  ――これは、私のせい?  中庭の中央にいる魔物の騎士が、剣の先を天に向けて掲げる。魔方陣の中央に魔物の騎士。そして、光を発し始めた剣。今ある情報から判断して、あの魔物がこの異常事態の原因だと思われる。 「これ以上、傷つけさせない!」  ソフィアは背中に生えた翼を広げ、助走をつけると、音楽塔から飛んだ。中庭へ急降下し、スピードも乗せて右腕の爪を騎士へ向けて振り下ろす。  ――倒せる!  それはゆっくりと動いて見えた。騎士は慌てる事無くソフィアへ振り返り、手にしていた剣をゆっくりとソフィアへ、斜めに切り上げる。全ては一瞬の事だったのに酷くゆっくり時間が経過したようにソフィアには感じられた。  ――騎士様! アンナ! ごめん……。  ソフィアの頭の中を笑顔のアンナと、騎士様の困った笑顔が過ぎった。  次の瞬間、時間は元に戻り、体を襲う激痛と、何度も地面に体をぶつけた痛みに襲われ、ついにソフィアの視界は闇に覆われる。    十二    中庭に着いたものの、サフィア達は手が出せず、こう着状態が続いていた。封印術が切れそうになった時、全てが動いた。中庭に浮かび上がったのは召喚魔術。それもかなりの強力な物。召喚門は囮であり、同時にこの魔術を発動する為の道具だったのだ。召喚門であるブラッド・クリスタルの魔力が乱共鳴し、魔力を増大させ、煉獄界と更に深く繋がることになった。  ――罠だ!  召喚門は、壊れた衝撃で中の魔力が解放されて発動するタイプの増幅装置。  それに気づいた時には、遅かった。騒然とする中を、音楽塔から飛来する者の姿があった。ソフィア。彼女が飛んで来て、騎士の返り討ちにあう。全てがあっと言う間の出来事だった。 「ソフィアちゃん!」
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