前篇

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 サフィアはソフィアの元へ駆け出した。兎に角今はソフィアを安全な場所へ避難させ、そこで治療しなければならない。見た所、ソフィアの出血は多いが、今、治療をすれば恐らくは助かる。問題はこの場で苦手な治癒魔術が使えるかどうか。安全な場所へ避難できない以上、やるしかない。 「死ぬんじゃないわよ!」  サフィアは歯を食い縛った。 「諸君! 結界封じの封印術は破棄。速やかに攻撃魔術へ切り替えなさい!」 「はい!」  教師、生徒は騎士から距離を取りつつ、いつでも攻撃出来るように術を組み始めた。  今まで動かなかった騎士が動き出す。騎士は召喚の準備が整うように誘導し、整えば後は用が無いとばかりに剣先を突き付けた。 「ご苦労。さて、後は死んで貰おうか」  騎士の後ろには強力な召喚により、更に強力な力を持つ魔物達の出現が始まってしまった。絶体絶命の絶望感が、重く圧し掛かる。 「ちょっと、あなた。この学園を傷つけたのね。それに、私の親友も! 」  少女の声が中庭へ響いた。膨大な魔力が瞬く間に術を組み上げ、一気に騎士へ振り下ろされた。膨大な魔力に押し潰されて、騎士と出現しようとしていた魔物も一緒に細切れにされた。 「ソフィア! ソフィア! しっかりして!」  強力な魔物を数体倒したばかりだと言うのに、疲れも感じさせず、その少女はソフィアの元へ駆け寄った。中庭にいた生徒や教師も安堵の表情を浮かべる。 「アンナ……後、エディ君も」  サフィアの治癒魔術が効いたのか意識を取り戻したソフィアが嬉しそうに少女の名を言って笑った。アンナと呼ばれた少女と、エディと呼ばれた少年がソフィアを心配そうに見下ろす。 「ソフィアの事、ありがとう。後の治療は私に任せて」  アンナはサフィアの代わりに治療魔術を組み始めた。惚れ惚れとする程見事な制御力。  サフィアは内心感心した。噂に聞いていた天才魔術師アンナ。王女でもある彼女は、歴代のルーン魔法学園生徒の中でも最も優秀な魔術師だと聞いている。  ――私もまだまだだって事よね。  ソフィアの事はアンナに任せて召喚術を見た。まだ発動中で、煉獄界から新手が続々出てこようとしていた。 「ラフォード先生、どうしましょうか?」
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