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 避難している生徒達に一番近い聖堂へエディを配置した。確かに、ラフォードの言う通り腕は確かで、この場を一人で任せても良いぐらいだった。これならむしろ、ラフォード達と一緒に学園内の残りの魔物の討伐と、実験室の方へ応援に行った方が良かったかも知れない。まぁ、不測の事態にも備えて、サフィアはここに居る訳だが。 「はぁ、やっと解放されそうね」  乱共鳴を起こしていたブラッド・クリスタルがまとっていた光が消え、回転のスピードも落ちて来ていく。 「ほら、あれを片付ければ大好きなお姫様の所へ戻れるわよ」 「承知!」 「お、オラだって!」  剣で流れを分断するように切り払い、攻撃魔術の光がブラッド・クリスタルの欠片全てを包み込んだ。 十五  戦場と化した学園で、まるでその場だけが違う空間のように満たしていた、美しい旋律が終わる。 「終わりましたね」  スティーブがエルダの側により、小声で告げる。「えぇ」とエルダは返す。  多くの生徒はお互いに身を寄せ合って、中には身を預けて器用に寝ている姿もある。その中に最も活躍したミラージュが生徒に交じって寝息をたて始めていた。 ――良かった。  エルダはミラージュとスティーブを見て微笑んだ。  エルダも実は内心かなり焦っていた。弟のエディとアンナ王女が今日中に帰って来ると知っていたが、間に合うかどうか分からなかった。実際は、二人がいなくとも学園にいる者だけで、かなり耐えていた。お蔭で二人の帰省が間に合った。 「ミラージュ先生、大暴れしていましたものね。少し休ませてあげましょう。スティーブ先生」 スティーブは微笑んで同意する。表情を僅かに曇らせたエルダは生徒達を見ながら言う。 「今回のこの騒動……裏があるようですわね」 「それはそうでしょうね。一介の生徒が実験の失敗で偶然呼べるような代物ではありませんし、それにそんな危険な術が載った書物等、この学園には置きませんよ。まぁ、奇跡的に被害が最小限で済みましたので、今回は良い人生経験と教訓になったでしょう」  大部分が破壊された校舎を見てスティーブは笑顔で言う。エルダはどう返して良いか困った表情になる。 ――大丈夫なのかしら?  巨大な悪意のある者が近くにいるかもしれないと言うのに、スティーブは心配そうな表情を一つも見せず、笑顔でただ先を見ていた。
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