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エピローグ  ソフィアは一人、元は音楽塔の鐘楼にあった大きな鐘を片手で持ち上げ、壊れた楽器を集めている場所まで持って行く所だった。鐘で見えなかったが、声でそこに騎士様がいる事に気付き、足を止める。 「騎士様!」 「お、ソフィア。すごいな、そんな物を一人で運べるのか」 「うん。これ見た目より軽いから」  首を振って否定すると、騎士様が苦笑し「俺には無理だ」と言う。 「そうね。あんたには絶対に無理ね」  サフィアが小さながれきを両手で持って一輪車へ乗せる。ソフィアとサフィア名前が似ているサフィアを見て、少々気まずさを覚えつつも、ソフィアは聞き忘れていた事を聞いた。騎士様の名前だ。 「あれ、言ってなかったっけ? 俺はアロックだ。みんなロックって呼んでいる」  そう言ってロックが手を差し出して来た。 ――アロック。ロック。それが騎士様の名前……。  ソフィアは慌ててピアノを置き、恐々と握り返す。そんなソフィアにかまわずロックは強く握る。 「良かったな。取り返せて」 「うん。騎士様のお蔭よ」 ロックが横へ首を振る。 「いや、君達が取り返したんだ。俺はただその手伝いをしただけだしな」  ソフィアは咄嗟に下を向く。視界が微かに、にじんできたの。空いている方の手で目をこするとロックが手を解いて、その手をソフィアの頭に乗せる。驚いて目を見開くと目頭が熱くなる。 「よく頑張ったな、ソフィア」 「……ありがとう」  ソフィアはそう言って、また口を開こうとした。しかし、声はなかなか出せなかった。 「あ、あの、騎士様」 「何だ? どうかしたか?」 「いえ、その、本当にありがとうございました」  目じりから、零れてきた物を指で擦って拭うと、顔を上げて笑顔を見せる。この時、ソフィアは最高の笑顔で見送ろうと決心した。いつか、きっとまた会える。その時までに今よりもっと強くなる。騎士様の、大切な人の隣で戦えるように――。
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