前篇

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「大丈夫?」  サフィアは視線を合わせるようにしゃがみ、努めて優しい笑顔で聞く。 「サラはちょっと休んでいただけですので、大丈夫です、おばさん。おばさんに心配されなくっても、サラは平気」  ツンと顔をそっぽ向ける。意外と平気そうな表情でサラと名乗った少女は立ち上がる。それに引き替え、サフィアはおばさんと呼ばれた事にショックを受けたようで固まった。  ――おばさんか。確かにそれぐらいあの子とは年齢が離れているよな。  一先ず固まったサフィアを無視して、ロックは翼を持つ隣の生徒へ名前を聞くと、ロックから視線を外したまま「ソフィア」と答えが返って来た。 「ソフィアさん、君は大丈夫か? どこか怪我をしていたりしてないか?」 「私は平気」  名前を呼ばれて反射的に上げた視線が、ソフィアを真っ直ぐ見ていたロックと視線が合い、ソフィアはまた視線を逸らしてしまう。ロックは戸惑いつつも視線を下げると、破れた制服のブラウスから覗く右腕は人の腕へと変わっていた。戦闘中は光り輝いていた金色の瞳が茶色へ変化し、角と翼、尾が生えているだけの、頬染めて恥じらう金髪の可愛い女の子だ。 「馬鹿」  何故かサフィアに暴言を吐かれた上に、またロックの頭を叩く。そのサフィアの態度から恐らくソフィアの胸が大きく、それを凝視していたと勘違いしたようだ。  ――俺の場合、胸が基準じゃなくて、性格なんだけどな。確かに最初に目が行くけど。  一度、サフィアの勘違いしている点をはっきりさせた方が良いかもしれないと思いつつ、微妙な雰囲気を壊す為、取りあえず、ロックは咳払いをしてから切り出すことにした。 「ソフィアさん。取りあえずこの子を安全な場所へ連れて行って貰えないかな?」  ソフィアは一瞬迷ったようだが、首を横へ振った。ロックは頭を掻いて思案した後、今度はサフィアへ声を掛けようと口を開こうとすると、遠くから悲鳴が響いて来た。  まだ残っていた生徒か、魔物を退治していた者が襲われたのかも知れない。 「サフィア、任せた!」  悲鳴を聞いた瞬間、悲鳴が聞こえてきた方へ、ロックとソフィアは走り出した。ソフィアの迷いが一切ない動きにロックは心配する。 「ソフィアさん。本当に、大丈夫なのか?」
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