前篇

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「私は、ここの生徒だから、私が守るの。私より、あなたよ。だって関係ないじゃない」  そう言い返されると、ロックは苦笑いをするしかなかった。 「まぁ、一応、俺は世界一の騎士ってやつを目指しているし、実際は傭兵みたいな事もやっているし。よく、こう言う事に巻き込まれてるから、巻き込まれた体質の習慣みたいなものだ」  ソフィアは不思議そうな表情でロックを見返した。    三    ロックはサフィアとサラと別れた後、ソフィアと一緒に悲鳴の主を助けた。それが、エルフの魔術師であるイリス。助けられた彼女も討伐隊へと加わった。 「本当に助かりましたわ。騎士様。あの時は、生徒会長たるワタクシも冷や冷やしましたわ。ソフィア様にも感謝いたしますわ。本当にありがとう」  ソフィアは首を横に振る。恥ずかしそうに「私も騎士様に助けて貰った」と小さな声で答えた。ソフィアが身に着けている制服のブラウスの袖が破れ、露わになっている鋭く大きな爪を持つ右腕を後ろへ隠しながら歩く。  それを見てロックはやっとソフィアの行動を理解した。  ――成程。コンプレックスがあるのか。  戦闘中だけとは言え、強い力を使う度に腕が変化するのだろう。それにソフィアは負い目を感じているのだろうとロックは思った。 「まぁ、ソフィア様も? それならワタクシ達お揃いですわね」  イリスが後ろへ回されていたソフィアの腕を取り、胸の高さで手を取り合う。人との触れ合いが苦手らしいソフィアはどうしたら良いのか悩んだらしく、思わずロックの方へ視線を投げる。ロックと視線が合った瞬間、ソフィアは視線を逸らした。 「今日、初めてソフィア様とゆっくり話せましたわ。いつもは姫様と一緒で、中々話せる機会がありませんでしたもの」  イリスの言葉にソフィアは右腕を上げ、視線を下げる。 「今、アンナはここにはいない。だから、私が守らないと……いえ、私が守る」  右手で力強く拳を作った。そんなソフィアを見てイリスは頬を膨らませて抗議する。 「まぁ、ソフィア様。この学園はみんなの物ですわ。ワタクシ達が守るが正しくってよ」 「うん、そうだね。アンナが戻ってくるまで、みんなで守る」
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