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夫婦の寝室には大きなベッドがあり、そこに二人並んで寝る。
新婚当初からずっとだ。
「私のことが気になって眠れないなら、私はリビングで寝てこようか?」
「子どもらが変な空気察するようなことはやめよう。」
そう返すと妻は俺に背を向けて寝た。
「まだ…許せない?」
「あのなあ!
Facebookのオッサンに毎日のように大好き~なんてやり取りしてて、俺には背中向けて寝るだけっておかしいだろ?
だいたい許すも何も、お前からはあれ以来なにも反省なり今後なり聞かせてもらってないんだぞ?
それをいきなり浮気の事実そのものを許せってどう考えてもおかしいだろ?」
「だって…だって…。」
妻は話したくない訳ではないのかもしれない。
ただ感情や想いを言葉に乗せる自信がないのだろう。
また、愛情を受けることは大好きだけど、愛情を伝えることも俺より何倍も下手なのだと思う。
思えば妻が不倫に走ったその時期も、ちょうど些細な理由で気まずい空気が長く続いていたと思う。
そこへ優しく悩みを聞くなり受け入れてくれる人がいたからコロリといってしまったのかな…。
もちろん妻が言ったことではなく、あくまで俺の想像でしかない。またそうだったから許せるというものでもないんだけど。
少なくとも妻なりにも大切にしてきたものを壊すリスクを知っていて一線を越えたからには、妻なりの理由があり、そして恐らく理由の大半は俺にあることは間違いない。
そう思うと、不器用な妻が不憫に思えてきた。
そっと腕を伸ばすと、妻は俺の肩に頬を埋めてきた。
寒い夜は、いつもそうして寝ていた俺たち夫婦の寝姿だ。
「俺はさ、もう以前ほどお前を愛することはできないと思う。」
妻の肩がしゃくるように上ずる。
俺はそのまま続けた。
「でも、もとが100ならそれが80でも70でも取り戻せたら、十分に夫婦としてやっていけるんじゃかいかなぁと思うんだ。」
「…うん。」
妻は泣いている。
「コップの水があって、それがこぼれてしまったらどうすればいいと思う?」
「…?」
「新しく水を足せばいいんだよ。
こぼれてしまったお前への想いはもう戻せないかもしれない。
だったら俺がまたお前を想えるように好きにならせてくれ。
それなら80でも90でも…もしかしたら元よりもっといっぱいにできるかもしれないだろ?」
「ごめん…。私、一番大切なものが全然見えなくなっていた。」
ちょっとだけ早漏が治った。
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