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店先のウィンドウ。酒の銘柄やグラスが展示されている前に佇むのは、左目の周りにかけて、他とは皮膚の質が違う顔を持つ少年。
隣には酒樽を抱えた、真昼間だというのにアイマスクをつけた少女が控えていた。
少女の髪から直に生えた白蛇がニヤリと口をゆがめた時、俺は嫌な予感がした。
店内でグラスを磨いていた手を止め、外へ出る。だが、それより蛇が少年に耳打ちする方が早かった。
無垢な顔に満面の笑みを浮かべ、少年の手がウィンドウに近づく。
次の瞬間、つぎはぎだらけの手に展示された酒瓶やグラスが引き寄せられ、自然の摂理に従って少年の手とそれらを隔てていた窓ガラスは大破した。
凄まじい破壊音の中、力なく握った俺の拳がぷるぷると震える。また弁償ものの失態……!
「クランケ―――!」
叫んだ拍子に、俺の頭に生える触覚がバチリと電流を放った。
この世界では、『イヴァン』という物質と物質を融合させる電磁波を出す鉱石が存在する。
まだ謎も多く、その厄介な性質のせいで危険も多い。
イヴァンの研究と国の取り締まりを同時に行っている『ポリストリー』という、世界最大の組織が存在することからもイヴァンの危険度が分かってもらえるだろう。
『ポリストリー』ヘルザニア支部、元エリート研究職員の俺、ゲミュート・マナーが坊ちゃん嬢ちゃんのお守りをしながら場末の酒場でアルバイトをするはめになったのは、この『イヴァン』が原因だ。
「俺達が取り締まる犯人がいるってのはここか」
「はい。彼が密輸犯のバウム・クーヘンのようですね」
事件当時、俺は同期の研究員とポリストリー支部の一室で密輸事件の取り締まりをしていた。
おびただしい数の密輸品と、檻に入ったここらでは見かけない爬虫類種族の密輸犯に目を見張る。
「電撃蝶の羽に透明人間奴隷、万物磁力鉱石に『イヴァン』の結晶まで! こりゃ終身刑確定だな」
醜い鱗だらけの顔を睨みつけ、脅すように吐き捨てる。
密輸犯は噛みつくようにまくし立てた。
「ここから出しやがれ、薄汚ぇポリストリーの狗が!」
「ぎゃーぎゃー騒ぐな、どのみちお前の犯罪は終わってるんだ」
密輸犯を軽くいなしていると、傍らでぼぅっと突っ立っていた同期の奴が
「亜人種を奴隷品として扱っていたのなら、終身刑よりも死刑の可能性の方が高いのでは?」
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