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自分のエモノである武器を向ける。それは右腕そのものだった。彼女の右腕はブリキであり、先ほど矢を放った射手機――弓銃器である。身体そのものが兵器なのだ。
右腕を伸ばし、ダンの声のした木の陰に照準を合わせる。射程距離圏内、感度良好。あとはその木の陰から頭を出せば、少女の意志が弓銃器に伝い矢が放たれダンの頭をザクロに変えるだけ。
さあ出てきなさい、そう念じながら瞬きもせず武器を構えた状態で維持する。
静かな森の中、緊迫した雰囲気がいくばくの時間と流れた。そして、
―――ザザッ
森の絨毯を踏みしめた音がした。それと同時に標的の木から黒い影が現れる。
勝った、そう確信した瞬間、
「詰めが甘いな、アリア」
しわがれた声。それと、まるで銃を向けられたような威圧が感じた。それもアリアと呼ばれた少女の後頭部近くで。
アリアはびくっと体を震わせ、見えない恐怖に顔がどんどん青ざめていく。嫌な汗が肌を伝う。じっくりと時間をかけて首だけ後ろに回した。
「な……んで」
驚き一面の顔の先には黒光りの狙撃ライフルを手に構えた老人が立っていた。
森の風景と同化した全身濃い緑色の服。顔はさらけ出し、混じり気なの白一色の頭髪と深い皺がある。しかし、その老人は見た目老いてはいるが“衰え”というものを感じさせない気迫さを放っていた。老人は冷めた視線で立ち膝の状態で固まるアリアを見据えていた。
身体中を喪失感が埋め尽くす。さっきまで感じられた風の音も、森のにおいも、もうしない。死を直前にした人間はこんな気持ちになると分かった今、アリアの胸には苦い後悔しか残らなかった。
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